古本屋にあった落とし物5

これは知り合いから聞いた話です。その方の目線になって書き綴っていきたいと思います。

黒マントのおじさんが、店内で立ち読みをした後に、みつけた忘れ物(贈り物のハムらしき包み)は、来週、交番に届けられる予定です。

店主から、古本屋の休日は、私が週に2日休みを取れれば、好きな曜日をお店のお休みにして良いと言われているので、今週は土日をお休みにしようかなと予定しています。

「不定休」ってやつですよね。世の中は、ウィークデイとウィークエンドなどに仕分けられ、ウィークデイには多くのサラリーマンたちは、理不尽な満員電車に揺られ、大抵の人々が、自宅を離れ都会へ出勤していきます。

闘うサラリーマンなんて言葉が、日本社会で使われる事がありますが、この古本屋の奥すみから、外の風景をながめていると、商店街に行き交う人々は平和そのものです。

ですが、平和な世の中だけではない現実があるんですよね。

現実とはいかに・・・、と、昼食を取って満腹な午後には、時々、そんな疑問を自分に問いてしまいます。きっと、こんな時間がもてる事が、一番幸せな事なのかもしれません。2階の喫茶店から、コーヒーの香りが降りてくると、コーヒーを1杯も飲まずに、幸せでいられる自分に、幸せ者の烙印でも押そうと、あくびをしながら背伸びをしていたら、店内に誰か入ってきました。

一瞬、目が合うと、久しぶりに現れた店主でした。

「オーナー、お疲れ様です。」と声をかけると、贈り物のハムはどうした?と聞いてきました。「贈り物のハムかどうかは、分かりませんが、まだ、取りに来ません。念の為、私の冷蔵庫に入れておきました。」と答えると、満面の笑みを浮かべながら、「合格」と言います。

私が、ポカンとしていると、忘れ物帳を眺めながら、店主が「黒マントは、ワシだよ。君のバイトの研修期間は、今日までだったよな。来週から、正社員として、採用させてもらいたいけれど、どうかな?」と言うのです。

私は、バイトでも、正社員でも、住居が構えられて、ご飯が食べられれば十分だったのですが、店主が「採用だ。」と言うのであれば、ありがたく「ご採用頂こう。」と思いました。

店主曰く、私が、きちんとお店の規律を守れるかを覆面審査したかったのだそうです。お店にほとんど居ない店主が、お店を任せたいと思う人を見極める為に、いつもこのようなシークレット審査を行っているのだそうです。

「他にも、従業員さんがいるのですか?」と聞いてみると、「ご想像にお任せします。」との返答でした。

ご満悦な店主を背に、私はさっそく、店主が置いていった紙袋の中身を確かめるべく、バックヤードの冷蔵庫へ向かいました。